鶴田栗之助は、風葉と号して小説を書くかたわら、友人、村木の妹・常子に英語を教えていた。広い邸内に住む兄妹は両親もなく、彼を家族同然にもてなした。その頃村木は胸を患っていたが、浅草の「千鳥」という飲み屋の酌婦お照と実懇の仲になっていた。ある雨の夜鶴田はとある家の中へ招じ入れられた。狐に化かされたような気になっていると、美人が酒肴を持って現われた。女はこの家の主婦君子で、夫が日霧戦争に出征中の軍人で、永い間の孤閨に耐えられず知り合いの若い男を相手にしていたのだが、今夜は目の悪い乳母が間違えて鶴田を招き入れてしまったのだった。事情を察した鶴田は強引に君子に迫るが、彼女の股間には貞操帯がはめられていた。だが諦めた君子は貞操帯の鍵を彼に渡した。鶴田と常子にはすでに肉体関係があり、村木もその事は気づいているようだった。そんなある日、お照を抱いていた村木が喀血した。鶴田は彼を屋敷へ連れ帰ったが、医師は転地療養をすすめた。その夜、屋敷に泊った鶴田は常子を抱いた。数日後、村木は常子とともに逗子の別荘へ行った。しばらくして、鶴田は常子からの葉書を受け取り、彼女に会いに逗子へ出かけた。だが常子は散歩中、鶴田が外国人と親しくキスしているのを見て、屈辱感に襲われ鶴田には会わなかった。翌日、鶴田の留守中に君子が訪ねて来ていた。近々夫が戦地から帰還することになったのだが、鶴田が貞操帯の鍵を持っていたままなので困っていたのだった。鶴田はそんな君子を強引に抱いてしまう。やがて、二、三日君子は彼のもとに泊って、抱かれているうちに、夫と別れて鶴田との結婚を決意した。そんなところへ常子が訪ねて来た。村木の姿がなくなったのだ。永い禁欲生活に耐えられず、お照のもとへ行ったのだった……。
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